導入 — なぜ推定が必要か
GPS の揺らぎを例に、観測はブレるもの・真値は見えないもの・推定は見積もるものという 3 つの概念を区別する感覚を養う。
スマートフォンの地図で立ち止まっているのに青い点がピクピク動くのは、観測値そのものにノイズが乗っているからです。カルマンフィルタは、観測をそのまま出す代わりに、見えない真値を推定します。
真値・観測・推定値の 3 つを区別する
このコースでは、つねに次の 3 つを分けて考えます。シミュレータの画面では、それぞれ別の線(真値・観測点・推定線)として表示されます。
まずは「観測は毎回ズレるものだ」と数字で感じるところから始めます。
平均はノイズを少し打ち消す
静止している対象なら、複数回の観測を平均するだけで見た目のブレは減ります。これは「ノイズがたまたま正負に分かれて打ち消し合う」からです。
ただし、平均だけでは 動きに追従しづらい という問題が残ります。
理解チェック 1 — 観測誤差と平均
真値 x = 100 m で、3 回の観測が 101, 98, 103 でした。誤差 e = z − x を 1 つずつ出してから、平均をとります。
Q1. 観測 z = 101 の誤差 e はいくつですか。
101 − 100 = 1 です。観測は毎回少しずつズレるので、まずは「ズレを数字で見る」ところから始めます。
Q2. 観測 z = 98 の誤差はいくつですか。
98 − 100 = −2。負の誤差は真値より下にある観測を表します。
Q3. 観測 z = 103 の誤差はいくつですか。
103 − 100 = 3。誤差は観測ごとに独立に引き算します。
Q4. 3 観測 101, 98, 103 の単純平均はいくつですか。
(101 + 98 + 103) / 3 = 302 / 3 ≈ 100.67。単純平均だけでもノイズが少し打ち消されますが、対象が動いていると遅れが出ます。
観測をそのまま使うと何が困るか
- UI がギザギザして見栄えが悪い
- 飛び値がそのまま制御入力になる
- 複数のセンサーで値が食い違うと混乱する
- 平均だけでは動きへの追従が遅い
理解チェック 2 — 観測をそのまま使う難しさ
観測をそのまま表示するとなぜ困るかを考えたあと、静止対象の平均を確認します。
Q1. 立ち止まっている端末の観測値が 10.0 → 10.2 → 9.9 → 15.0 と返ってきました。観測値をそのまま表示し続けると困る理由として、もっとも適切なものはどれですか。
正解は 1 です。観測値にはノイズや飛び値が含まれるため、そのまま UI や制御に使うと、たとえば 15.0 のような外れ値がそのまま表示されたり制御入力に入ったりします。選択肢 2 もそれだけでは不十分な理由ですが、UI や制御に直接的な悪影響が出るのは飛び値です。
Q2. 静止対象を 4 回観測したところ、10.1, 9.9, 10.2, 9.8 でした。単純平均はいくつですか。
(10.1 + 9.9 + 10.2 + 9.8) / 4 = 40.0 / 4 = 10.0。静止対象なら平均はかなり効きますが、動く対象では遅れが気になります。
この章で持ち帰る直感
観測はブレる。真値は見えない。だから「観測」ではなく「推定」を持つ価値があります。次章では、過去の推定をいったんモデルで 未来の時刻に進める「予測ステップ」を見ます。観測が来る前に、いま手元にある情報だけで「次の時刻はこうだろう」と置く操作です。