音速・波長・往復時間 — 距離の基本
音速、周波数、波長、往復時間の 4 点セットを整理し、距離と解像感の最初のトレードオフを作る。
音速は一定ではない
海水中の音速は一定の 1500 m/s ではありません。実際には 温度・塩分・圧力(深さ) に依存します。表層では温度の影響が大きく、深くなるほど圧力の影響が効いてきます。外洋の多くの場所では、塩分の影響は温度や圧力より小さい傾向にあります。
入門では、まず 1500 m/s 近辺の代表値を用いて計算できれば十分です。ただし、厳密な距離計算や屈折を考える段階では、音速プロファイルが必要になります。
Mackenzie の音速近似式
本講座のシミュレータと第 7 章の最小実装では、温度・塩分・深さから音速 c を求めるために Mackenzie (1981) の 9 項近似式を用います。式の代表形は次の通りです。
c [m/s] = 1448.96
+ 4.591 T − 5.304×10⁻² T² + 2.374×10⁻⁴ T³ ← 温度項
+ 1.340 (S − 35) ← 塩分項
+ 1.630×10⁻² D + 1.675×10⁻⁷ D² ← 深さ項
− 1.025×10⁻² T (S − 35) − 7.139×10⁻¹³ T D³ ← 交互作用項
記号は T: 水温 [°C]、S: 塩分 [PSU]、D: 深さ [m] です。T の高次項は表層での温度依存の非線形性を、D の項は深部での圧力依存を表します。塩分の係数は 1.34 と小さく、温度の 4.59 に比べて寄与が小さいことが式の上でも読み取れます。第 6 章のシミュレータで温度・塩分・深さのスライダを動かしたときの音速変化は、この式で計算しています。
波長は c / f で読む
波長は 1 周期ぶんの長さで、λ = c / f です。周波数が高いほど波長は短くなります。短波長は細かな構造を見やすくしやすい一方で、後で見るように吸収が増えやすくなります。
たとえば c = 1500 m/s、f = 30 kHz なら、波長は 0.05 m です。つまり 5 cm です。アレイの素子間隔を考えるときも、この波長が基準になります。
往復時間から距離を戻す
能動ソナーでは、送信から反射受信までの往復時間を測ります。片道距離は c × t / 2 です。ここで音速 c と時間 t の単位をそろえることが大切です。m/s と s を使えば、そのまま m が出ます。
式は簡単でも、現場感覚としてはかなり重要です。距離が 2 倍になると時間も 2 倍になる。周波数を変えても、音速が同じなら往復時間の基本式は同じ。この対応が頭に入ると、シミュレータの数字が格段に読みやすくなります。
この章の理解チェック
音速の依存因子、波長と周波数の関係、往復時間からの距離計算を確認します。
Q1. 音速に効く 3 つの代表因子。海水中の音速に主に効く組合せとして最も適切なものを選んでください。
surface ocean では temperature、deep では pressure をよく意識します。
海水中の音速は主に温度、塩分、圧力(深さ)に依存します。
Q2. 塩分の影響の位置づけ。外洋の多くの場所では、塩分の音速への影響は温度や圧力に比べてどう見なすとよいですか。
DOSITS では salinity は most locations で smaller と説明されています。
外洋の多くの環境では、塩分の影響は温度や圧力より小さい傾向にあります。ただし河口や沿岸では無視できないことがあります。
Q3. 波長を計算する。音速 c = 1500 m/s、周波数 f = 30 kHz とします。波長 λ = c / f は何 m ですか。
30 kHz = 30000 Hz です。
1500 / 30000 = 0.05 m なので、波長は 5 cm です。
Q4. 0.8 秒の往復時間から距離を出す。音速を 1500 m/s とし、反射が 0.8 s 後に戻りました。片道距離は何 m ですか。
往復 0.8 s の半分だけ進んだ距離です。
1500 × 0.8 ÷ 2 = 600 なので、片道距離は 600 m です。
Q5. 同じ音速で周波数を 2 倍にしたとき。音速が同じまま周波数だけ 2 倍になると、波長はどうなりますか。
λ = c / f です。
音速が一定なら、周波数を 2 倍にすると波長は半分になります。
この章で持ち帰ること
- 音速は温度・塩分・圧力に依存し、外洋では塩分の寄与は比較的小さい。
- 波長は
λ = c / f。高周波ほど短くなる。 - 往復時間から距離を出す式は
distance = c × t / 2。