導入 — なぜしきい値だけでは困るのか
まずはファジィ制御に入る前に、しきい値制御が境界でどんな段差を作るのかを数で確認する。
境界の近くでセンサ値が少し揺れるだけでも、しきい値制御は急激に切り替わりやすく、ファジィ制御は重なりのぶんだけ滑らかに変えられます。
まずは扇風機を 3 段階で切り替えると考える
この講座では、温度と湿度からファン出力を決める小さな制御器を題材にします。最初に比較対象として、次のようなしきい値制御を置きます。
| 条件 | 出力 | 値 |
|---|---|---|
| 温度 < 23℃ | 弱風 | 20 |
| 23℃ ≤ 温度 < 27℃ かつ 湿度 < 45% | 弱風 | 20 |
| 23℃ ≤ 温度 < 27℃ かつ 45% ≤ 湿度 < 70% | 中風 | 50 |
| 23℃ ≤ 温度 < 27℃ かつ 湿度 ≥ 70% | 中風 | 50 |
| 温度 ≥ 27℃ かつ 湿度 < 45% | 中風 | 50 |
| 温度 ≥ 27℃ かつ 湿度 ≥ 45% | 強風 | 85 |
この表は比較用です。第 2 章以降では、ここを「重なりを持つラベル」に置き換えていきます。
問題は「境界にいるとき」の飛び
たとえば湿度 69% を固定して、温度が 26.8℃ → 27.1℃ に変わっただけだとします。人の感覚では「少し暑くなった」程度ですが、しきい値制御は 27℃ をまたいだ瞬間に中風 50 → 強風 85へ飛びます。
理解チェック 1 — しきい値の飛びを手で追う
この章で使ったしきい値ルールだけで答えます。出力は弱風 20、中風 50、強風 85 とします。
Q1. 室温 22.5℃・湿度 40% のとき、しきい値制御の出力はいくつですか。
22.5℃ は 23℃ 未満なので『寒い』側です。湿度に関係なく弱風 20 になります。
Q2. 室温 26.8℃・湿度 69% のとき、しきい値制御の出力はいくつですか。
26.8℃ は 27℃ 未満なので『快適』、69% は 70% 未満なので『ふつう』です。したがって中風 50 です。
Q3. 室温 27.1℃・湿度 69% のとき、しきい値制御の出力はいくつですか。
27.1℃ は『暑い』側へ切り替わります。湿度 69% は『ふつう』なので強風 85 です。
Q4. 前の 2 問の出力差は何ポイントですか。
50 から 85 へ飛ぶので差は 35 ポイントです。境界の飛びが数で見えました。
この章で持ち帰る直感
ファジィ制御の出発点は、「曖昧さを厳密に消す」ことではなく、段差をそのまま制御へ持ち込まないことです。第 2 章からは、境界を消す代わりに、ラベル同士を少し重ねて 0〜1 で扱う方法を見ます。
参考: 上のしきい値テーブルで使った 23℃・27℃ という温度境界は、第 2 章で導入する温度ラベル「寒い / 快適 / 暑い」のメンバーシップ関数の重なり区間 (19〜25℃ や 25〜29℃) におよそ対応します。湿度 45%・70% の境界も、湿度ラベル「乾燥 / ふつう / 蒸し暑い」の重なり区間にそのまま置き換わります。