想定外例外で終了すべきか継続すべきかの判断表
· 小村 豪 · Windows開発, 例外処理, 設計, C# / .NET, 信頼性
想定していない例外の話になると、つい「落とすか、catch して続けるか」の二択で考えがちです。 ただ、実務ではこの二択の置き方が少し乱暴です。
本当に見たいのは、壊れた可能性がある範囲を閉じ込められるか です。
- その操作だけ失敗で終えられるのか
- その画面 / 接続 / ワーカーだけ再初期化すればよいのか
- もうプロセス全体の整合性が怪しいのか
この順で見ると、かなり整理しやすくなります。
この記事では、C# / .NET の Windows アプリ、常駐アプリ、Windows サービス、装置連携ツールなどを前提に、想定していない例外が起きたときに継続してよい条件と、終了したほうがよい条件を判断表としてまとめます。
1. まず結論
catch (Exception)で握りつぶして続行、はだいたい危険です。- 継続してよいのは、失敗した単位を捨てられる、共有状態を元に戻せる、外部副作用を説明できる、の 3 つが揃うときです。
- UI の 1 操作、1 件の入力、1 件のジョブなど、処理境界が明確なら継続できることがあります。
- 逆に、共有の書き換え可能な状態、常駐ループ、メインスレッド、起動処理、ネイティブ境界、メモリ破壊臭が絡むなら終了寄りです。
StackOverflowException、AccessViolationException、OutOfMemoryExceptionのような「プロセス全体の健全性」を疑う例外は、継続前提で考えないほうが安全です。- WPF や Windows Forms には未処理例外を拾って見かけ上続ける道もありますが、続けられることと続けて安全なことは別です。
- 長時間動くサービスや監視アプリは、半分壊れたまま生き延びるより、落ちて再起動されたほうが診断もしやすく安全なことが多いです。
要するに、判断の軸は 不変条件を回復できるか です。
2. この記事でいう「想定していない例外」
2.1 想定内と想定外を分ける
まず、珍しい例外と想定外の例外は同じではありません。
たとえば、こういうものは頻度が低くても 想定内にできます。
- ユーザーが存在しないファイルを選んだ
- 通信先が一時的にタイムアウトした
- 取り込み CSV の 1 行が壊れていた
- キャンセル操作で
OperationCanceledExceptionが出た - 業務ルール違反でその処理だけ失敗にしたい
これらは、その失敗をどう扱うかを設計で先に決められる種類です。
一方で、この記事で主に扱う 想定していない例外は、こういうものです。
- 自分のコードの前提が崩れて
NullReferenceExceptionやInvalidOperationExceptionが出た - 共有状態の更新途中で例外が飛び、どこまで反映されたか怪しい
- 監視ループやメッセージ処理の親ループが落ちた
- COM / P/Invoke / vendor SDK 境界で異常が出た
AccessViolationExceptionやStackOverflowExceptionのように、そもそもプロセスの健康診断が赤い
つまり、「この例外が起きたあとに、アプリの状態をまだ信用してよいか分からない」ものです。
2.2 二択に見えて本当は三択ある
この話をややこしくする犯人は、継続を 1 種類で考えてしまうことです。
実務では、だいたい 3 段階に分かれます。
| 選択 | 意味 |
|---|---|
| その操作だけ失敗させて継続 | 画面は残すが、今回の保存や取り込みだけ失敗扱いにする |
| サブシステムだけ止めて継続 | 接続、画面、ワーカー、子プロセスだけ再初期化する |
| プロセスを終了する | 状態破壊の範囲が読めないので、再起動前提にする |
「アプリを継続する」と言っても、何もなかった顔でそのまま続けるのと、壊れた部分を切り離して継続するのでは重みが違います。
3. まず見る判断表
3.1 全体像
まずはこの表から見ると、だいたいの方針が決まります。
| 状況 | まずの選択 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 つの入力、1 つの画面操作、1 つのジョブだけが失敗し、状態を捨てられる | 継続寄り | 失敗単位を閉じ込められるから |
| 例外後に対象オブジェクトや接続を破棄し、作り直せる | サブシステム再初期化寄り | 壊れた範囲を局所化できるから |
| 共有状態を途中まで更新したが、どこまで反映されたか分からない | 終了寄り | 不変条件が崩れている可能性があるから |
| DB / ファイル / 装置コマンドなど外部副作用が半端で、重複や未反映を説明できない | 終了寄り | 外の世界との整合が読めないから |
| 監視ループ、再接続ループ、メッセージ処理の親ループが想定外例外で落ちた | 終了寄り | 黙って一部機能だけ死ぬとゾンビ化しやすいから |
| 起動処理、設定読み込み、DI 構成、必須依存の初期化で失敗した | 起動失敗で終了寄り | 半端に起動するほうが危険だから |
AccessViolationException、StackOverflowException、深刻な OutOfMemoryException、native 側の破壊臭がある |
即終了寄り | プロセス全体の健全性が怪しいから |
| 危険な処理が別プロセスに隔離されていて、親プロセスは無傷 | 親は継続、子を再起動 | 障害領域を分離できているから |
flowchart TD
A["想定していない例外"] --> B{"メモリ破壊 / スタック枯渇 / 致命的な資源枯渇の臭い?"}
B -- "はい" --> Z["終了 / FailFast / 再起動"]
B -- "いいえ" --> C{"失敗した単位を捨てられる?"}
C -- "いいえ" --> Y["終了寄り"]
C -- "はい" --> D{"共有状態をロールバック / 再初期化できる?"}
D -- "いいえ" --> X["サブシステム停止 or 終了"]
D -- "はい" --> E{"外部副作用を説明できる?"}
E -- "いいえ" --> X
E -- "はい" --> W["その操作だけ失敗として継続"]
3.2 例外型より先に見ること
例外型だけで即決しないほうがよいです。 先に確認したいのは、このあたりです。
| 見る点 | 何を確認するか |
|---|---|
| どこで起きたか | UI イベント、1 件ジョブ、親ループ、起動処理、ネイティブ境界のどこか |
| どこまで進んだか | 途中でメモリ状態、DB、ファイル、装置状態が変わっていないか |
| 壊れうる範囲 | そのオブジェクトだけか、画面全体か、プロセス全体か |
| ロールバック可能か | 破棄して作り直せるか、トランザクションで戻せるか |
| 外部副作用 | 送信済みか未送信か、二重実行が安全か、補償処理できるか |
| 監視・再起動 | 落としたあと自動再起動や復旧導線があるか |
3.3 危険度の高い例外
細かい例外型の話を全部する必要はありませんが、継続前提で見ないほうがよいものはあります。
| 例外 / 兆候 | まずの選択 | 見る理由 |
|---|---|---|
StackOverflowException |
即終了寄り | 呼び出しスタックが破綻しており、通常の回復を前提にしにくい |
AccessViolationException |
即終了寄り | 保護メモリへの不正アクセスで、ネイティブ境界やメモリ破壊が疑われる |
OutOfMemoryException |
終了寄り | 追加割り当て前提の回復処理自体が不安定になりやすい |
unexpected な NullReferenceException / InvalidOperationException |
文脈次第だが終了寄り | 自分の前提崩れであり、途中変更が残っている可能性がある |
| 親ループから漏れた想定外例外 | 終了寄り | 機能の中核が死んでいるのにプロセスだけ残る危険がある |
| COM / P/Invoke / vendor SDK callback 起点の異常 | 即終了〜強めの終了寄り | managed だけ見ても安全性を判断しづらい |
4. どこで起きたかで判断する
4.1 UI イベント
ボタンクリック、画面遷移、検索、ファイル選択のような UI イベントは、継続できる余地が比較的大きいです。 ただし、条件があります。
継続しやすいのは、こんな場合です。
- 読み込み前に失敗し、業務状態をまだ触っていない
- ダイアログ内の一時状態だけ壊れており、画面を閉じれば捨てられる
- 例外後に ViewModel や接続を作り直せる
- 利用者へ「今回の操作は失敗した」と正直に伝えられる
逆に、こうなってくると終了寄りです。
- 画面とドメイン状態の両方を途中まで更新した
- static / singleton / キャッシュなど、他画面も見る共有状態を触った
- 例外が起きたあと、ボタン活性や選択状態だけ残って整合が分からない
- UI スレッド上で unexpected な例外が起き、どこまで描画や通知が進んだか怪しい
4.2 1 件ずつ処理するジョブ / リクエスト
ここは、継続しやすい境界です。
- 1 メッセージ
- 1 ファイル
- 1 HTTP リクエスト
- 1 取り込みジョブ
- 1 バッチ対象
こうした単位が明確なら、その 1 件だけ失敗にして次へ進めます。
ただし、前提があります。
- 失敗単位が外から見て明確
- 途中変更がトランザクションや補償で整う
- 同じ処理をもう一度流しても結果が壊れない性質がある
- 失敗を隔離キューやエラー記録へ逃がせる
4.3 常駐ループ / 監視 / キュー処理
ここは、雑に継続すると一番まずい場所です。
たとえば:
- 再接続ループ
- 監視ループ
- キュー消費ループ
- 定期ポーリング
- 装置状態監視
- トレイアプリの常駐処理
この手の処理で怖いのは、親ループが 1 回の想定外例外で死に、プロセスだけ生き残ることです。
ここでは方針を分けたほうがよいです。
- 各アイテム処理の境界で想定内例外を捕まえる
- 親ループから想定外例外が漏れたら、プロセス終了寄りにする
4.4 起動処理
起動時の失敗を「とりあえず起動してから考える」にすると、たいてい後で泣きます。
- 必須設定が読めない
- バージョン移行 / マイグレーションに失敗した
- 必須フォルダや証明書がない
- 中核サービスの初期化に失敗した
- 依存関係の構成が壊れている
こういう場合は、起動失敗として終了のほうが分かりやすいです。
4.5 ネイティブ境界 / COM / P/Invoke / unsafe
ここは別枠で少し厳しめに見たほうがよいです。
- COM
- P/Invoke
- C++/CLI の先
- vendor SDK
- callback で戻ってくる native 側コード
unsafeを含む処理
特にこのあたりが見えたら終了寄りです。
AccessViolationException- ヒープ破壊やダブル free を疑う症状
- ハンドル異常、解放後アクセスの臭い
- callback 境界で突然死ぬ
5. 継続してよい条件
継続してよい条件をまとめると、こうなります。これらがだいたい揃っていることが前提です。
| 条件 | 意味 |
|---|---|
| 失敗単位が明確 | 1 操作、1 画面、1 ジョブ、1 接続など、捨てる単位が分かる |
| 状態を捨てられる | 破棄して作り直せる、または未反映として扱える |
| 共有状態が守られる | 他の機能へ汚染が広がらない |
| 外部副作用を説明できる | 送った / 送っていない / 再送してよい、が分かる |
| 利用者へ正直に伝えられる | 「今回の処理は失敗した」と表示できる |
| 監視できる | ログ、メトリクス、ダンプで後追い調査できる |
6. 終了したほうがよい条件
逆に、ここに当てはまるなら終了寄りです。
- 途中まで何を変更したか分からない
- 共有の書き換え可能な状態を触っていて、整合が読めない
- ロック、キュー、スレッド、監視ループの寿命管理が壊れた
- 外部副作用の重複 / 欠落 / 半端が説明できない
- 起動処理や中核インフラの初期化で失敗した
- ネイティブ境界やメモリ破壊を疑う
このレベルなら、きれいに継続する工夫より、落として復旧しやすくする工夫のほうが効きます。
7. 典型パターン別のおすすめ
| パターン | おすすめ | 理由 |
|---|---|---|
| ファイルを開くボタンで存在しないパスを指定した | その操作だけ失敗で継続 | 状態破壊が局所的だから |
| CSV 取り込みの 1 行だけ壊れていた | 1 行失敗 or 1 ファイル失敗で継続 | 失敗単位を閉じ込めやすいから |
画面保存の途中で unexpected な NullReferenceException が出た |
画面再作成〜終了寄り | どこまで ViewModel / 業務状態が変わったか怪しいから |
| キューの 1 メッセージが業務ルール違反だった | そのメッセージだけ失敗で継続 | 隔離キューへ逃がせるから |
| キュー消費の親ループが想定外例外で落ちた | プロセス終了寄り | ワーカー全体の寿命が壊れているから |
| 起動時に必須設定が読めない | 起動失敗で終了 | 半端起動のほうが危険だから |
vendor SDK callback まわりで AccessViolationException |
即終了寄り | メモリ破壊の可能性を無視できないから |
| 非本質なテレメトリ送信だけ失敗した | その機能だけ無効化して継続 | 主機能と障害領域を分けられるから |
8. よくある NG
8.1 catch (Exception) でログだけ出して続ける
これはかなり危険です。 原因を隠すうえに、壊れた状態を延命しやすいからです。
8.2 最後の未処理例外ハンドラで回復しようとする
AppDomain.UnhandledException、Application.ThreadException、DispatcherUnhandledException などは、最後に記録する場所としては有用ですが、魔法の回復ポイントではありません。
8.3 外部副作用があるのに安易に retry する
装置コマンド、メール送信、課金、ファイル移動、DB 更新などで同じ処理の再実行安全性がないまま retry すると、今度は二重実行事故が主役になります。
8.4 監視ループが死んだのに UI だけ残す
見た目だけ生きていて、仕事をしていないアプリはかなり迷惑です。
8.5 落とす設計をしていないのに「落としたくない」と言う
落としたくないなら、その前に入れておくものがあります。
- 自動再起動
- セッション復元
- 途中成果の保存
- 再実行安全性
- 障害領域の分離
9. 実装時の整理ポイント
9.1 catch する場所を境界に寄せる
深い層で何でも catch するより、
- UI 操作境界
- 1 リクエスト境界
- 1 ジョブ境界
- 1 接続境界
- プロセス境界
のように、失敗単位が定義できる場所で受けるほうが整理しやすいです。
9.2 想定内例外と想定外例外を分ける
- 想定内: validation、not found、timeout、cancel、業務ルール違反
- 想定外: 前提崩れ、親ループ漏れ、ネイティブ境界異常、メモリ破壊臭
9.3 共有状態を小さくする
共有の書き換え可能な状態が大きいほど、継続判断は難しくなります。 逆に、1 画面 1 セッション 1 ワーカーの中へ閉じ込められるほど、失敗も閉じ込めやすくなります。
9.4 危険な処理は別プロセスへ逃がす
COM / ActiveX / vendor SDK / unsafe / 重い画像処理 / 外部機器制御など、落ちたときの被害を広げたくないものは、別プロセス化がかなり効きます。
9.5 未処理例外ハンドラは「回復」より「記録」
- 例外情報
- 操作文脈
- 直前の重要ログ
- 設定 / バージョン / 接続先
- dump 採取導線
このあたりを揃えて、落ちたあとに詰められる形を優先したほうが、結果として安定します。
9.6 WPF / WinForms の未処理例外イベントを過信しない
WPF では DispatcherUnhandledException で Handled = true にすると、未処理例外後も続けること自体はできます。
Windows Forms でもメイン UI スレッドでは Application.ThreadException や SetUnhandledExceptionMode の設定次第で止め方を選べます。
ただ、それで続けられるかどうかと、回復条件が揃っているか は別の問題です。
10. まとめ
想定していない例外が起きたときに見るべきなのは、「この例外は catch できるか」ではなく、このあともアプリの状態を信用できるかです。
判断の順番としては、だいたいこれで十分です。
- 失敗した単位を捨てられるか
- 共有状態を戻せるか、作り直せるか
- 外部副作用を説明できるか
- メモリ / スレッド / ネイティブ境界の健全性は信用できるか
この 4 つに自信があるなら継続できます。 自信がないなら、終了寄りです。
特に、長時間動くアプリ、監視アプリ、サービス、装置連携では、壊れたまま生きることのほうが、素直に落ちることより危険な場面がかなりあります。
例外処理は「落とさない技術」ではありません。 壊れ方を小さくし、壊れたら正直に止まり、復旧しやすくする設計です。
11. 参考資料
- .NET: Best practices for exceptions
- .NET: System.Exception
- .NET: StackOverflowException
- .NET: System.AccessViolationException
- .NET: Environment.FailFast
- .NET: AppDomain.UnhandledException
- WPF: Application.DispatcherUnhandledException
- Windows Forms: Application.SetUnhandledExceptionMode
- .NET: Exceptions in Managed Threads
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